晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

映画「パトリシア・ハイスミスに恋して」~全身小説家

【あらまし】 『太陽がいっぱい』『リプリー』などの映画の原作を書いた小説家パトリシア・ハイスミスの人生を紹介するドキュメント。生誕100年を経て公開された日記や本人のインタービュー映像、元恋人たちや親類へのインタビュー、映画の映像などを織り…

映画「ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌」〜本物を見たくなる

【あらまし】 プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の舞台を現代のニューヨークに移したミュージカル映画。ボヘミアン的生活を送る四人の若い男(詩人、画家、音楽家、哲学者)と二人の女性との恋愛が歌われる。基本的な筋は、プッチーニのラ・ボエームと同じで…

東京ステーションギャラリー〜都会の中のオアシス

用事があり、久しぶりに上京した。東京駅に早く着いたので、前から気になっていた東京ステーションギャラリーに行ってみた。名前のとおり、東京駅構内の丸の内北口にある美術館である。 企画展として、「春陽会誕生100年/それぞれの闘い」が開催中であった。…

映画「AALTO/アアルト」〜今につながるデザイン

【あらまし】 フィンランドの世界的建築家アルヴァ・アアルトの記録映画。残っている映像や資料、インタビュー、手紙、作品などの資料を重ねて、その生涯を丹念に描く。 【自然との調和】 アアルトの根底には、人間は自然の一部であり、建築や家具は自然に調…

映画「ヨーロッパ新世紀」〜グローバリズムのつけ

【あらすじ】 ルーマニア、トランシルバニア地方の田舎の村。若者は出稼ぎに出ている。村での職場は、パン工場くらいしかない。しかし、低賃金で働き手がいない。 ドイツに出稼ぎに出ていた男が帰ってくる。出稼ぎ先の食肉工場で暴力沙汰を起こし、逃げてき…

映画「旅するローマ教皇」~ぶれない人

【あらまし】 第266代ローマ教皇フランシスコのドキュメンタリー。大部分は、約800時間のアーカイブ映像を編集したもの。教皇フランシスコは、2013年の就任以来、53カ国を訪問している。映画では、各地での訪問の様子が描かれる。【旅する教皇】 ブラジル、…

映画「福田村事件」~人間社会のジレンマ

【映画のあらまし】 関東多大震災の後、福田村(千葉県野田市)で実際に起こった行商人虐殺事件を題材にした作品。事件の背景となる村民の人間関係などはフィクションと思われる。 群像劇である。中心人物は、朝鮮半島から福田村に引き揚げた夫婦。夫は元教師…

映画「ロストキング/500年越しの運命」〜取り憑かれた人

【あらまし】 実話に基づく、リチャード三世の遺骨を発掘した女性の話。 フィリッパ・ラングレーは二人の息子を育てながら、会社員として働く女性。ある日、シェイクスピアの「リチャード三世」の劇を見て、悪人リチャード三世として描かれた王に同情する。…

映画「名探偵ポアロ/ベネチアの亡霊」〜余裕のないポアロ

【あらまし】 引退してなぜかベネチアで暮らす名探偵ポアロ。ハロウィンの夜、旧知のミステリー作家に誘われ、古い館で行われる降霊会に参加する。屋敷で亡くなった令嬢の霊が見えるという胡散臭い霊媒師のトリックを見破るポアロ。しかし、次から次へと起こ…

映画「私の大嫌いな弟へ/ブラザー&シスター」〜禁断の愛

※ネタバレあり 【あらすじ】 舞台劇女優の姉アリスと詩人の弟ルイが和解するまでのドラマ。 若くして女優になり、脚光を浴びた姉。その影に隠れて長年目が出なかった詩人の弟。もともとは仲の良い姉弟だった。ところが、弟が詩人として成功してから、二人の…

映画「6月0日/アイヒマンが処刑された日」~歴史的事件の後始末に奔走した無名の人々

【あらまし】 アイヒマンの処刑と遺体の処理にまつわるドラマ。 1961年。アイヒマンは、潜伏先のアルゼンチンからイスラエルに拉致され、裁判にかけられた。判決は絞首刑。刑の確定後、ただちに処刑される。問題は遺体の処理。 遺体は遺族に引き渡さなければ…

映画「バカ塗りの娘」〜津軽塗を買おう

【主役は津軽塗】 「バカ塗り」というのは、津軽塗の異名で、馬鹿正直に何度も塗り直すので、こう呼ばれるのだとか。 家業の津軽塗を娘が継ぐまでの話。自分探しと成長譚、家族との葛藤などに今風のテーマが織り込まれている。 漆を塗り込み、器を磨いていく…

映画「アステロイド・シティ」〜誰かさんの悪夢

※ネタバレあり 【メタフィクション】 1955年。アメリカ南西部の砂漠の町、アステロイド・シティ。奇抜な発明をした5人の天才少年少女とその家族が招待され、科学賞の授与が行われる。そこにUFOに乗った宇宙人が現れて……。 という話なのだが、実はこれは脚本…

映画「君は行く先を知らない」〜子どもは分かっている

✳︎ネタバレあり。 【あらすじ】 イランが舞台。父、母、長男、次男の四人家族と犬。車でひたすらどこかに向かう。ハンドルを握る長男は物静か。助手席の母は、次男を叱ったかと思えば、歌謡曲に乗って急にはしゃいだり。髭面で熊のような父は、片足にギブス…

映画「エリザベート1878」〜義務と気晴らし

【あらまし】 オーストリア皇后エリザベートの40歳の1年をドキュメント風に描いたもの。 夫は、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ一世。エリザベートは皇后としての役割を果たすため、ダイエットをして細身の身体を維持し、乗馬やフェンシングで身体を鍛え…

映画「キエフ裁判」〜事実の耐えられない重さ

【概要】 第二次世界大戦終結後、ソ連でナチスの将校を被告とする軍事裁判が開かれた。本作は、実際の裁判の記録映像を編集して作られたもの。 1941年、ナチスドイツは、キエフを占領下に置き、在住のユダヤ人を殲滅する作戦を敢行した(バビ・ヤールの大虐殺…

映画「二人のマエストロ」〜道を譲るとき

【あらすじ】 フランス人指揮者の父と息子。年老いた父の輝かしいキャリアは過去のものとなっている。一方、息子は、大きな賞を受賞し、時流に乗っていてる。息子の活躍が、父には面白くない。 ある日、老指揮者に電話が入る。夢にまで見たミラノ・スカラ座…

映画「アウシュビッツの生還者」〜数奇な人生

【あらすじ】 1943年、ポーランド人でユダヤ教徒のヘルツコ・ハフトは、アウシュビッツに収容された。身体が強いのを見込まれて、ナチス将校の主催する収容者同士の賭けボクシングのボクサーになる。負けた者は、殺されるという過酷な試合。ヘルツコは、勝ち…

映画「大いなる自由」~大いなる不自由?

【概要】 かつてドイツでは、男性の同性愛は刑法175条で罰せられた。その頃の話。 ハンスは、ナチス・ドイツの時代から、同性愛の罪で収容されており、戦後も釈放されることなく、アメリカの統治下でも収容が続けられた。 出所しても、繰り返し検挙され、収…

映画「シモーヌ」〜呼ばれた人

シモーヌ・ヴェイユは、フランスで一番人気のある女性だそうである。私は、この映画で初めて知った。日本の多くの人がそうではないか。 それに同姓同名で、時期も同じ頃のフランス人哲学者がいる。こちらなら、うっすら聴き覚えがあって、ちょっと混同しかけ…

映画「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」〜生き延びるために必要なもの

※ネタバレあり 【あらすじ】 ウィーンで女優の妻とともに優雅に暮らす公証人バルトーク。自信にあふれ、誇り高い男。音楽と文学をたしなみ、美食と舞踏を楽しむ毎日を送っている。 1938年、ナチスがオーストリアに進軍する。高を括っていたバルトークだが、…

映画「658km、陽子の旅」〜道程が心を開く

✳︎ネタバレあり 【作品のあらまし】 東京で一人暮らしをする42歳独身のフリーター陽子。引きこもりの、さえない暮らしぶり。 ある日、従兄弟が訪ねてきて、故郷の青森の父が急死したと知らされる。従兄弟一家の車で青森に向かうが、サービスエリアで休憩中に…

映画「古の王子と三つの花」~平面の美

【どんな作品?】 アニメーション作品。三つの話が語られる。①古代エジプトのファラオの話 小国の若い王は、恋人の母の反対で結婚できない。王は、神々に守られて、平和的にエジプトのファラオになり、恋人を后に迎え入れる。②中世フランスの領主の息子の話 …

【ネタバレあり】映画「君たちはどう生きるか」〜子どもの終わり/往きて還りし物語

※ネタバレあります。 【あらすじ】 主人公の眞人(マヒト)は、戦災で母を亡くし、父とともに母の実家に疎開する。父は、母の妹(ナツコ)と再婚する。ナツコは父の子を身籠っている。 母の実家は古い大きな屋敷であり、奇怪なことがよくおこる。屋敷の裏山…

映画「SAINT OMER/サントメール・ある被告」~フランスの刑事裁判

【あらすじ】 アフリカにルーツを持つ、フランスで生まれ育った女性作家ラマは、海辺の町サントメールで行われた裁判の傍聴に行く。作品の取材のためである。実は、ラマは妊娠をしており、不安を抱えている。 生後15ヶ月の娘を海辺に置き去りにして、殺害し…

映画「遠いところ」~私を取り残さないで

【どんな映画?】 沖縄市のゴザ。アオイ17歳は2歳の子持ち。キャバクラで生活費を稼ぐ。夫は働かず、夫婦げんかの末、暴力を振って家出。キャバクラが摘発されアオイは職を失う。夫は暴力沙汰を起こして示談金を請求される。誰もあてにできず、昼間の仕事の…

映画「キャロル・オブ・ザ・ベル」~抵抗の歌声

【あらすじ】 第二次世界大戦前夜。ポーランドのスタニスワヴフという街が舞台。 ユダヤ人一家のアパートに、ポーランド人一家とウクライナ人一家が入る。それぞれの夫婦の間には、女の子がいる。 ポーランド人夫婦とウクライナ人夫婦は、警戒し合っているが…

映画「小説家の映画」~人生の回り道

【どんな映画?】 韓国のホン・サンス監督の作品。書けなくなった女性小説家が、映画に出なくなった女優と意気投合して、短編映画を撮るという話。 ストーリーはなく、全編会話が続く。シーンの流れは以下の通り。 ①小説家が、地方の町で古書店を営む後輩を…

映画「To Leslie/トゥ・レスリー」〜人生を立て直すには?

【ストーリーはシンプル】 シングルマザーのレスリーは、6年前に宝くじを当てた。そして散財の挙句、無一文のアル中になる。都会で働く息子を頼るが、愛想を尽かされ、故郷の町に送り返される。町の連中からは笑い者にされるが、町外れでモーテルを営む男に…

映画「遺灰は語る」~死者から見た世界

【二つの物語の謎】 二部構成。「遺灰は語る」(約60分)の後に、短編「釘」(約30分)が置かれる。 「遺灰は語る」は、ノーベル賞作家ルイジ・ピランデッロの遺灰がローマから故郷のシチリアに帰るまでの旅を描く。 「釘」は、ピランデッロの遺作を映像化したも…