晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

映画「遺灰は語る」~死者から見た世界

【二つの物語の謎】 二部構成。「遺灰は語る」(約60分)の後に、短編「釘」(約30分)が置かれる。 「遺灰は語る」は、ノーベル賞作家ルイジ・ピランデッロの遺灰がローマから故郷のシチリアに帰るまでの旅を描く。 「釘」は、ピランデッロの遺作を映像化したも…

映画「青いカフタンの仕立て屋」〜モロッコ版「こころ」?

※ネタバレ注意 【意外な展開】 「昔ながらの職人が妻と慎ましく暮らすしみじみとした話」かなと思って観ていたら、途中に「あれ?」と思う場面が何回かあって、次第に「あれあれ」という展開になって、「何だそういうことか」となったのであった。 【実は】 …

映画「探偵マーロウ」〜通好みのエンタメ

【どんな映画?】 マーロウは、個人営業の初老の探偵である。もともとロサンゼルス郡検事局の捜査官だったが、事情で退職している。依頼者は、美しい女性。失踪した愛人を探してくれという。その愛人は、交通事故で死んでいるはずだったが……。調査に乗り出し…

映画「逃げきれた夢」〜何から逃げるのか?

【あらすじ】 定時制高校の教頭の男。定年まで後一年。妻との関係は冷え切っていて、娘に話しかけても避けられる。 職場では、良い先生ぶりを発揮する。若い教員を気遣い、生徒の相談に乗る。タバコの吸い殻を集めて回るが、わざと音を立てて、生徒が逃げら…

映画「aftersun/アフターサン」~まばゆい日々と憂うつ

【あらすじ】 イギリスから、トルコの片田舎のリゾート地にバカンスに来た父と娘。 父はまだ、若い。31歳の誕生日を迎えたばかり。娘は11歳。思春期の入口に立っている。実は、二人は別々に暮らしている。娘が幼い頃、父と母は離婚したのだ。 父が用意し…

『47都道府県女ひとりで行ってみよう』益田ミリ

月に1回、47都道府県のどこかに行ったという記録である。著者はイラストレーター益田ミリ。33歳から37歳にかけて足かけ四年、かかった費用は、合計220万円。 泊まるのは主にビジネスホテルで、移動手段も飛行機や新幹線など普通である。大抵は1泊2…

映画「ウーマントーキング」~話に花が咲く

【ネタバレ注意】 キリスト教の一派の閉鎖的なコミュニティの中で起きた一連のレイプ事件。男たちが留守の二日間に、女たちは男たちと闘うか村から逃げるかを話し合って決める。 ほとんどが話し合いの場面。議論やディベートではない。トーキングである。最…

映画「怪物」~怪物のもやもや

【ネタバレ注意】 湖のある地方の町が舞台。 始めに火事が起こる。 火事を起点として、三つの視点からの物語が描かれる。 第一の視点は、小学校高学年の息子と暮らすシングルマザーから。思春期を迎えつつある息子の変化に戸惑う。息子の奇妙な言動が続き、…

映画「パリタクシー」~長い寄り道

パリの外れにある老人ホームに入るためにタクシーに乗った老女と中年運転手の話。 長い寄り道をしながら、92歳の老女が人生を振り返る。 老女の人生はなかなかに激しい。戦争。未婚の母になり、新しい夫からのDVと復讐、裁判。悲しいことの方が多いが、幸…

映画「Tar/タ―」~権力に捉われた人

成功した女性指揮者の転落譚。 クラシックの世界も楽ではない。ベルリンフィルの指揮者になっても、ちっとも幸せではない。 この人は一体、何がしたかったんだろう。とにかく努力する。無理をしている。人を攻撃する。敵をやっつける。えこひいきする。地位…

映画「生きるLIVING」~リメイクの面白さ

黒澤明の「生きる」のリメイク版。 リメイクといっても、あのカズオ・イシグロが脚本を書いている。(「石黒和夫」だと普通の名前なのに、カズオ・イシグロと書いた途端に知的な感じがするのは不思議だ。) 黒沢明の「生きる」をDVDで観たのは、ずいぶん…

映画「波紋」~深みのない人々

東日本大震災の直後に、夫が出奔する。それから妻は、新興宗教にはまる。庭は枯山水になり、リビングには祭壇が設えられ、家中に「緑命水」の瓶が並べられる。何年かぶりに帰って来た夫は末期のガンという。妻は怒りを押し殺して、冷ややかに接する。九州で…