月に1回、47都道府県のどこかに行ったという記録である。著者はイラストレーター益田ミリ。33歳から37歳にかけて足かけ四年、かかった費用は、合計220万円。
泊まるのは主にビジネスホテルで、移動手段も飛行機や新幹線など普通である。大抵は1泊2日で、ありきたりの観光地に行く。行って帰ってくるだけである。やりたいと思ったことも、思い切って言い出せずにあきらめることもある。最初の内は名物を食べようとするが、無理に名物を食べることはないと思い直し、デパ地下で買った総菜などで済すようになる。歴史には興味がない。地元の人とのふれ合いのようなことも、ない。感想も平凡である。ただ、正直である。三回目くらいで、もう飽きたなどと書いている。それでも続けている。毎回、会計報告がついているのもいい。大体五万円くらいである。ときどき、笑えたり、ほろっとするところがある。
旅行記というものは、マルコポーロ「東方見聞録」の昔から、沢木耕太郎「深夜特急」に至るまで、珍しい場所に行ったとか、奇妙な体験をしたとか、困難を乗り越えたということを書くものである。「ドーダ」精神*1が、その根底にある(と思う)。
テレビ番組でも旅番組は多いが、「鶴瓶の家族に乾杯」のように人々とのふれ合いであったり、こだわりのグルメがテーマであったりする。
益田ミリはそのどれにも与しない。初めの頃は、これでいいのかなと気にしているが、だんだん開き直っていく。そして、一人旅を楽しめるようになり、自由であることに気づいていく。
だけど、わたしがこの旅であらためて振り返って一番強く感じたのは、「47都道府県ひと旅でもしてもよう」と思える道を、わたし自身が選んで歩いていたんだということである。
わたしには、一人旅に出れない理由がないのだった。
誰の了解を得ずとも、ふらっと旅に出られる。自分で休む日を決めて、自分のお金を使って、託す子供もおらず、預けるペットも飼わず。ひとり旅に出ようと、ふと、思ったのは、旅に出られる自分だったからなのだ。(あとがき)
これは、一人の女性が色々なしがらみから離れて、自由になっていく成長物語なのであった。そして、誰しも、自由に自分の好きなことをすれば良いと教えてくれる。
私もどこかに行きたくなった。