【あらまし】
ベルギーのブリュッセル。掃除婦として働く女性は、仕事を終えて帰途に着く。ところが、地下鉄で寝過ごし、終点まで行ってしまった。もう、帰りの列車はない。仕方なく、歩いて自宅の方に向かう。途中で、ATMでお金を下そうとするが残高不足だったり、せっかく見つけた夜行バスは運行中止になったり。そして、スーパーの警備員と何気ない会話をしたり、寝ている路上生活者を助けたり、車に乗せてくれたコンビニの店員とはお互いの身の上話をする。家にいるはずの娘が夜遊びしているのを見かけ、車から降りて、物陰から様子をうかがう。疲れ果てて帰り、眠りにつく。そして、翌日はいつものように仕事に向かうのだった。
【日常生活の隙間に】
電車を乗り過ごすといったトラブルは、誰しも経験があるだろう。映画の中では特別なことは何も起きない。
それは、日常生活の隙間にあるちょっとした落とし穴のようなもの。そういうときは、得てして間の悪いことが起きる。そして、知らない人に助けを求めることになるし、そこで普段は話をすることもない人とのコミュニケーションが生じることもある。そういうときに、親切にしてもらえると嬉しいし、そこで交わした何気ない会話はなぜか心にも残るものだ。
主人公の女性は、ヒジャブ(🧕)のようなものをかぶっている。ムスリムなのだろうか。裕福とは言えないが、アパートに住み、きちんと室内を整えて、落ち着いた暮らしをしている。夫とは死別し、今は17歳の娘と二人暮らし。娘は青春を謳歌しようとしているところで、母親としては心配事が尽きない。
女性は助けを求めるばかりではない。疲れ切っているのに、路上生活者を助けたり、そのあとで病院に様子を見に行ったり、路上生活者の飼い犬のことまで心配するなど、とても優しい。女性がヒジャブをかぶっていることもあって、宗教的な雰囲気がある。
昔読んだトルストイの寓話に、キリストは貧しい人に姿を変えて現れるというのがあったのを思い出した(調べてみたら「愛のあるところに神あり」という話だった)。
日常の中に空いた落とし穴は、実は、神様と出会う瞬間であったのかもしれない。
ゴースト・トロピック
★★★★
「Here」と同じくベルギーのバス・ドゥヴォス監督の作品。日常の一期一会的な瞬間を切り取る作風。16ミリフィルムの映像も優しく、美しい。84分。