晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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映画「Here」~自然の中の人間

【あらまし】

 舞台はベルギーの首都ブリュッセルルーマニアからの出稼ぎ労働者の男性と中国系の植物学者の女性の出会いを描く。

 出稼ぎ労働者シュテファンは、ビルの建設現場で働いている。夏は一か月間、工事がストップするので、仲間はそれぞれバカンスに出かける。シュテファンは、故郷のルーマニアに帰るつもりである。残った食材を処分しようと、冷蔵庫の野菜を全部出して、スープを作る。そして、友人たちにスープを配って歩く。みんな喜ぶ。どうやら、スープを作るのが得意らしい。長年、ベルギーで働いているらしく、友人もけっこういるし、姉も住んでいる。

 シュテファンは、不眠症のようだ。夜に起き出して、あたりを歩いて回る。最近は、子どものときのことを思い出したりする。森でホタルを捕まえたこととか。そして、ホタルを捕まえてみたりする。生活に行き詰まりを感じて、ルーマニアに戻ることも考えている。

 植物学者のシュシュは、コケ類の研究者である。日々、コケを採集しては、顕微鏡で観察して記録している。コケには様々な姿がある。それはまるで、小さな森のようだ。

 シュシュの叔母は、中国料理の食堂を開いている。たまたま、シュシュが店の手伝いをしているときに、シュテファンが料理のテイクアウトにくる。雨だったので、シュテファンは食べていくことにし、何となく二人は会話をする。

 シュテファンは修理に出した車を取りに行くために、森を通り抜ける。そのときに、コケを採集しにきたシュシュと再会する。シュテファンは、興味を示し、シュシュと一緒にコケを採集したり、観察をする。雨が降ってきて、二人は別れる。

【自然の中の人間】

 視点が人間中心ではなく、人間も風景の一部のように扱われている。人間は、都市を作ってその中で住んでいるが、それも自然の一部である。ちょうど、蟻が蟻塚で暮らしているように。

 しかし、人間は、都会で暮らすと疲れてしまう。ビルを作ったり、地下鉄に乗ったり。人間は社会を作って生きているので、その中で何かしら問題が起きてしまう。たとえば、シュテファンは、故郷の幼馴染みの友人が、何かで刑務所に入っていると聞く。   

 人間は、物事に名前を付け、意味を求めるが、自然はそこにあるだけである。人間の社会で暮らすのもいいけれど、人間をやっていて疲れると、自然に帰りたくなる。

 シュシュは、ある朝目覚めると、物の名前をすっかり忘れてしまっていることに気づく。そして、目の前のテーブルやカーテンが、直接自分の中に滑り込んでくることに驚く。短い時間ではあったが、シュシュは、言葉を介さずに直接、世界に触れたのである。普段から、言葉のない世界を見続けていたから、こんなことが起こったのかもしれない。

 二人は、特に意図なくして出会い、再会する。二人はただ、森を歩いて、コケを集めて観察するだけである。そしてそれは、その場でしか起こらない、二度とはない出来事なのである。

 その後のことは、語られない。ただ、シュシュは叔母から、シュテファンがスープを届けに来たとだけ聞く。

 余韻のある、良い終わり方だった。

 

Here 

★★★★