【あらまし】
フィンランドの世界的建築家アルヴァ・アアルトの記録映画。残っている映像や資料、インタビュー、手紙、作品などの資料を重ねて、その生涯を丹念に描く。
【自然との調和】
アアルトの根底には、人間は自然の一部であり、建築や家具は自然に調和して作るべきであるという思想がある。これが人間の身の丈に合った、曲線を多用した新しいデザインに結実した。
住みたくなる家、座りたくなる椅子というのがアアルトの作品である。
今となっては、よく見かける感じであるが、ここが出発点だったのだ。
【仕事人間】
アアルトは、社交的で如才ない人でもあった。各地の有名建築家と知己になり、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でアアルトの企画展が催され、マサチューセッツ工科大の客員教授を務め、アメリカでも手広く仕事をした。
アトリエは、ルネサンス時代の工房のようで、信頼できる建築家を使い、自分のアイデアをどんどん実現していった。職人や作業員を大事にした。人望があり、人を使うのもうまかった。誰とも同じように気さくに接する一方で、ある線からは、誰も立ち入らせなかった。
晩年は、むしろ時代遅れで柔軟性に欠けると評価された。アルコールに溺れた。それでも心臓発作で急死する直前まで現役で仕事を続けた。
【二人の妻】
アアルトが活躍できたのは、二人の妻の存在があってのことだった。
最初の妻、アノイは、大学の建築科の同級生。アアルトの作品は、アノイとの共同作業だった。アノイが布などの素材で仕上げ、アアルトの作品として完成した。アノイは、夫の世話を焼き、子どもの面倒を見て、それから自分の仕事をした。静かで、どっしりとした、芯の強い女性である。アアルトが世界各地を飛び回れたのも、アノイが支えてくれたからである。
アノイは、50代半ばで他界する。アアルトとは、打ちひしがれる。
三年後、アアルトは建築家のエリッサと再婚。これでアアルトは、安心して働けるようになる。年若い妻は、アアルトの要求に応じて、着る服も白か黒に限った。エリッサは、見た目もアノイに似ている。エリッサは、アノイを意識していた。エリッサも建築家としても、アアルトの仕事を支えた。アアルトの死後は、設計図面などの資料の保存・管理に努めた。
【感想】
アアルトの設計した「ルイ・カレ邸」は、簡素でこじんまりしているが、中は広々として、足の悪い主人にも使い勝手の良い造りになっている。こんな家に住めたら良いだろうと思った。
アアルトは、代々森林官を務める家系に生まれたそうである。*1樹木に親しんで育ったことが、木材を多用する手法につながったようだ。アアルトの作品は、和風な感じがするが、日本に関心を持つことはなかったようである。
建物を俯瞰した映像が美しく、美術館に行ったような気分になった。
AALTO/アアルト
ドキュメンタリー ★★★★★
教養 ★★★
*1:公式サイトより