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映画「私の大嫌いな弟へ/ブラザー&シスター」〜禁断の愛

※ネタバレあり

【あらすじ】
 舞台劇女優の姉アリスと詩人の弟ルイが和解するまでのドラマ。
 若くして女優になり、脚光を浴びた姉。その影に隠れて長年目が出なかった詩人の弟。もともとは仲の良い姉弟だった。ところが、弟が詩人として成功してから、二人の関係がおかしくなる。姉は弟を憎みはじめ、二人の関係は決裂する。
 時は流れ、姉弟の両親が自動車事故に巻き込まれ、重体となる。二人はお互いに相手を避け続けるが、両親の葬儀あと、対面する。最後には二人は和解し、一晩を過ごした後、姉は旅立ち、弟は教師として仕事を再開する。
【複雑な家族関係】

 家族関係は入り組んでいる。断片的に示されるので分かりにくいが、整理してみる。

  1.  父アベルは、学業を途中で諦めて家族のために懸命に働いた人。年上の妻と結婚し、長女アリス、長男ルイ、次男フィデルをもうけた。家にいるのは週末くらい。読書家で芸術方面の知識も深い。アリスを溺愛する一方、ルイには厳しかった。事故後に妻の容態を心配し、妻の死後には後追い自殺をしていることから、妻への愛情はうかがえる。
  2.  母マリー=ルイーズのキャラは不明(冒頭での自動車事故により意識不明となり、そのまま亡くなるため)。ルイとの関係は悪かったようだ。
  3.  アリスは、可愛く才能のある子どもだった。父から、母への愛情がないと告白され、母の代わりだったと語る。学校を退学して、周囲の反対を押し切って女優の道に入り、成功する。弟の親友の劇作家と結婚して、流産ののち、男の子を一人さずかる。感情の起伏が激しい性格。結婚後しばらくまでは、ルイとは仲が良かったが、ルイが詩人として成功すると、態度を一変させて、ルイを極端に憎み始める。女優だけあって、にこやかな表情で酷い言葉を言ったりもするが、コントロールを失うと、叫んだり、暴れたり、卒倒したりする。アルコールと薬に頼っている。夫との関係は距離がある。
  4.  ルイは、誕生日のたびに父から、モーツアルトピカソと比較され、「お前はまだ何もしていない」とけなされた、と語る。ルイは、反抗的な子どもに育ち、母との関係も険悪だった。アリスは、ルイの憧れだった。アリスの陰に隠れていた間は、二人の関係は良かったが、ルイが詩人として成功すると、憎しみをぶつけられる。ルイも初めは戸惑うが、次第にアリスを避けるようになる。ルイは、ユダヤ教徒で教師のフォニアと結婚する。フォニアとの間に子どもができるが、6歳のときに亡してしまう。それ以来、ルイとフォニアは、フランス南部トゥールーズの山中の小屋で、ひっそりと暮らす。ルイは、詩人としては成功している。アリスを題材にした詩を書き続ける。ルイもまた、不安定で感情的になりやすい性格。アヘンを常用して、空を飛ぶ幻覚に浸ったり、父や甥(アリスの息子)を急に食って掛かったり、意識不明の母に添い寝をしてみたり、屋上から飛び降りようとしたりする。
  5.  次男フィデルはキャラが薄い。アリス、ルイのどちらとも関係は良く、パイプ役のような役割である。同性のパートナーと暮らしている。 

【憎しみの謎】

 きょうだいが、大人になってから不仲になったり、疎遠になったりすることは、よくある。しかし、アリスのルイへの憎しみは度を越している。

 アリスの嫉妬深い性格にも一因がありそうである。自分が庇護していたルイが、詩人として認められ、裏切られたと思ったのだろうか。ルイの詩のモチーフに自分を使われ続ていることにも傷ついたようである。また、母の死後、母が身に付けていたペンダントにルイの息子の写真が貼られていたことを知り、ショックを受けている。母の愛をルイに奪われたという思いもあったのか。

 ルイは、嫌われながらも、アリスに執着している。アリスをモチーフにした詩を作り続け、アリスへの手紙を書いたりしている。妻フォニアとは愛し合っているが、ルイにとっては、フォニアは傷つきを癒してくれる存在に過ぎなかったのかも知れない。

 アリスは、ルイを忌み嫌ってたのに、両親の葬儀のあとに、手の平を返したように和解を申し出る。その後二人は急接近するのだが、これがよく分からない。

 どの程度かは分からないが、二人の間には、かなり深い愛憎があったようである。姉弟ゆえに認められる関係ではないし、それぞれ結婚をし、関係を断とうとしたが、結局はごまかしきれなかったということか。両親の死後に二人は急接近している。重しが取れたということか。

 二人で一夜を過ごしたのち、アリスは旅に出て、ルイは教師として再出発する。二人とも自分の家族とは別れて、一人になったのだろう。やっと、自分自身と向き合い始めたと言えるのかもしれない。

【感想】

 予告編を観たところ、コメディタッチの軽い作品なのかなと思っていたが、予想外に重かった。チラシには、「誰もがどこかで思いあたる感情」とあるが、愛憎の程度が著しく、「誰もが思いあたる感情」とは言えないと思えた。上記以外にも周辺人物も様々で、色々と深読みができる作品ではあった。

 

私の大嫌いな弟へ/ブラザー&シスター

家族ドラマ ★★★★

シリアス  ★★★