晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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東京ステーションギャラリー〜都会の中のオアシス

 用事があり、久しぶりに上京した。東京駅に早く着いたので、前から気になっていた東京ステーションギャラリーに行ってみた。名前のとおり、東京駅構内の丸の内北口にある美術館である。

 企画展として、「春陽会誕生100年/それぞれの闘い」が開催中であった。

 観覧料は、大人1,300円。無料のロッカーがあるほか、大きな荷物は受付で預かってくれる。身軽になって、エレベーターで三階の展示室へ向かう。入口は目立たないが、中は案外広々としている。三階と二階が展示室である。古い東京駅の赤レンガがその利用されていて、おもむきがあった。観客まばらで、静かである。

 春陽会とは、帝国美術院と二科会に対抗して、1922年(大正11年)に設立された洋画団体である。創立時のメンバーには、「麗子像」で有名な岸田劉生や洋画家界の重鎮梅原龍三郎などがいる。

 展示は、設立時から時代を追って、1950年頃までの春陽会会員の作品を紹介している。設立時の趣意書や会員間で送った手紙なども展示されていて、当時の熱気が伝わってくる。メンバーが一堂に会したときの肖像画もあった。

 画家は、ほとんどが初めて聞く人々であった。パンフによれば、その名を冠した美術館がある人が3人、文化勲章をもらった人が3人いるとのこと。当時は、有名だったのだろうし、今でも知っている人は知っているのだろう。

 春陽会自体が「名人主義」だったとのことで、展示された絵の画風は様々。面白いと思う絵もいくつかあった。

 一つ挙げると、木村荘八の「パンの会」。酒場で芸術家たちが芸者をはべらせて酒盛りをしている絵だが、人々の動きや表情が丁寧に描きこまれていて、じっと眺めていると、酒場の喧騒が聞こえてくるような気がした。

 大正11年から戦後にかけての時代である。この時期というと、関東大震災から戦争に向かっていき、敗戦という感じで、暗く重たいイメージなのだが、展示された絵を見ていくと、案外、モダンで明るいものもあり、色彩も豊か。この当時も、人々は生活を楽しみ、喜怒哀楽があったのだなあということが感じられる。

 そのほか、長谷川潔の版画「アレキサンドル三世橋とフランス飛行船」は細密な線で表現され、静的だが動きがある不思議な作品。この人は、フランス留学に行ったまま日本に帰らず、フランス文化勲章をもらった人である。

 長谷川は「自分が作品を作るのではなく、芸術が自分に作品を作らせる」というようなことを言ったそうだ。画家は亡くなっても絵は残るのだと、当たり前のことを思う。

 出口付近には、岡鹿之助静物画や風景画が並べられていた。展覧会パンフにも採用された、点描のほっこりした画風である。最後に整った感じになる。

 二階の展示室を出ると、回廊に出る。東京駅や丸の内界隈の変遷を紹介したパネルやジオラマなどの展示がされている。その中で、「月の満ち欠けブラケット」というものがあった。これは、東京駅で使われていたブラケット(回廊を支えるための鉄製の三角形の持ち送り)に満月から新月までの月の変化が表現されていたというもので、解体工事の際に発見された。

 佐藤正午の小説「月の満ち欠け」は、田舎から上京した主人公が問題の母娘と東京駅丸の内南口の東京ステーションホテル二階のカフェで対面する場面から始まる。ここを舞台にしたのは、このブラケットからの発想だったのかもしれない。ちょっとした発見であった。

 一階に降りるには、二階のショップを通るようになっている。あいにく、展覧会の絵ハガキは売っておらず、何も買わないまま出た。

 外は、喧騒というほどではないが、サラリーマンやキャリーバックを持った旅行客などが忙しく行き交っていた。

 都会の中のオアシスのような美術館であった。

 

「春陽会誕生100年 それぞれの闘い」展

 東京ステーションギャラリーにて開催

 (2023年9月16日~11月12日)