【あらまし】
アパートに住む映画評論家の夫と元精神科医の妻の老夫婦。夫は心臓病を患い、妻は認知症になっている。二人が亡くなるまでをドキュメンタリータッチに描く。
【人生は夢の中の夢】
初めの方で老夫婦が仲良く、ベランダで乾杯をする場面がある。妻は「人生は夢ね」と言い、夫は「人生は夢の中の夢だ」と答える。
夢がこの映画のテーマの一つである。
二人はベッドに並んで深く眠っている。妻は、目覚めても、次第に現実が分からなくなっていく。辺りを徘徊し、夫のことを「あの人誰なの?」と息子にそっと尋ねる。
一方、夫は、「映画と夢」をテーマに本を執筆しようと躍起になっている。人生は夢だ、と言いながらも、本を書くことや、大量の本、愛人など、色々なものに執着している。妻が認知症であることを直視せず、老人ホームに入ることも拒否する。
結局、夫は本を完成させることなく倒れ、妻もまもなく亡くなる。妻の葬儀のシーンで、生前のスライドが上映される。若かりし頃の二人の姿。息子の誕生。精神科医としての仕事。引退後の穏やかな生活。しかし、残されたのは、二人の墓標のみ。
最後に、物で溢れていたアパートが、空っぽになっていく様子が示される。
【二分割】
夫視点、妻視点の二分割で表現される。同じ時間にお互いが何をしているかが示される。
妻が辺りを徘徊している間、夫はタイプライターに向かい合っている。混乱する妻の話を息子が聞いているとき、夫は愛人に電話を掛ける。夫の死後、妻がため込んだ薬をトイレに流しているとき、息子はコカインを吸入する。
長年連れ添った夫婦でも、そこには超えられない壁がある。夫が妻の手を取り、「愛しい人、お前のために何をすればいい?」と語りかけるが、もはや妻には届かず、空々しく聞こえる。
【人生は虚しい】
空の空 いっさいは空である。
日の下で人が労するすべての労苦は、その身になんの益があるか。
観終わったのち、上の詩句が思い浮かび、調べてみると旧約聖書の伝道の書の言葉だった。
一人残された妻は、ベッドの中で、毛布を頭にかぶって祈りの言葉を唱えて眠りにつき、翌朝に冷たくなる。
苦しんで死んだ夫に比べれば、妻の死は安らかなものであったが、妻が最後にすがったキリスト教的な救いではなく、むしろ仏教的な無常感が表現されているように思えた。
VORTEX
シリアス ★★★★★
リアリティ ★★★★★
考えさせらせる ★★★★