晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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映画「みつばちと私」〜生まれ直しの儀式

【あらまし】

 夏のバカンスをスペインバスク地方の実家で過ごす母と3人の子ども。末っ子のアルトールは、男の子であることに違和感を覚えている。愛称のココ(男の子)と呼ばれることも嫌う。髪を長くして、マニュキュアをしている。プールは恥ずかしくて入れない。友達もできないが、唯一、養蜂場で知り合った女の子と密かに遊ぶ。

 アルトールの個性を尊重する母に対して、周囲の人々は、男の子のようにさせるべきだと言う。その母も、アルトールが性自認の問題を抱えていることは、受け入れられない。

 そんなアルトールも、養蜂家の大叔母には心を開く。自分には名前がないと言うアルトールに、「存在しているものには名前がある。名前がないなら、自分でつけなさい」と告げる。

 覚悟を決めた母は、祝祭日にアルトールにドレスを着せて、カミングアウトをさせようとする。ところが、アルトールは、その場から姿を消してしまう。

 その間、アルトールは、密かに養蜂場に行き、蜜蜂の巣箱を4回叩いて、ルチアという新しい名前を名乗るのだった。

【儀式】

 アルトールは、8歳である。まだ、性的な同一性について悩むには早いような気もする。とはいえ、5歳くらいになれば、男の子らしさ、女の子らしさははっきりしてくるのだから、違和感を覚えてもおかしくないとも思える。

 そんなアルトールをありのまま受け入れたのは、養蜂家かつ蜂針療法家の大叔母である。人里離れて一人で暮らしていて、世間からは外れたところにいる。

 オトコとオンナの区別は、コトバが作り出したものである。人間の身体は自然のものなで、コトバにできない部分もある。大叔母がアルトールを受け入れられたのは、大叔母が自然と近いところにいたからだろう。

 大叔母は、「女の子に生まれ変わりたい」と言うアルトールに、「自分が生まれた時には、母が蜜蜂の巣箱を3回叩いて名前を告げた。母が死んだ時にも、巣箱を3回叩いて、返した」と話して聞かせる。

 とはいえ、人はコトバによって生きる。アルトールが生きるには、ふさわしい名前を見出さなくてはならなかった。

 アルトールは、大叔母からの教えを取り入れて自分なりにのやり方で新しい名前を名乗る。これは、生まれ直しの儀式のように思われた。

 

みつばちと私

★★★★