晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

映画「笑いのカイブツ」~レゾンデートル

【作品のあらまし】

 原作は、同名の構成作家ツチヤタカユキ氏の自伝的小説。

 ツチヤは、母と二人暮らし。就職もせず、部屋にこもってお笑いのネタを考え続けている。テレビの大喜利でレジェンドを獲得し、新喜劇の劇場に漫才の台本を持ち込む。才能が認められ採用されるが、周囲と交わらず、独善的な態度をとり続けるツチヤに居場所はなかった。新喜劇を辞めたツチヤは、深夜ラジオに投稿するハガキ職人となる。人気漫才師に認められ、上京するも、ろくに挨拶もできず、妥協することもできず、周囲の和を乱すばかり。酒におぼれ、体も壊してしまう。作品は大いに受け、ライブは成功するのだが、ツチヤは大阪に帰り、自暴自棄になって、道頓堀に飛び込む。

【お笑い】

 ツチヤ自身は、笑うことは一度もない。たまに薄笑いを浮かべるくらいである。このように暗い人物が人を笑わせるネタを考えられるのだろうか、と思ってしまうが、たぶん逆である。自分が笑ってしまえば、人を笑わせることはできない。

 人はなぜ、笑うのか。おかしいからである。どういうときに、おかしいと感じるのか。それは、何か意外なことが起こったときや、常識とは外れたことに接したときに感じるのである。

 すると、笑わせるには、意外なことや常識外れなことを考えなくてはならない。

 そのために、ツチヤは四苦八苦するのである。だから、「お前、おかしいやろ」と言われて、ツチヤは「最高の誉め言葉じゃ」と答える。

【レゾンデートル】

  ではなぜ、ツチヤは、そこまでしてお笑いにこだわるのであろうか。

 これは、ツチヤが世間では、うまくいかないためであると思われる。

 成人式のスーツを着るようにと言う母親に対して、ツチヤは「成人式なんか行くか。修学旅行にも行っていないし、卒業式にも出ていないんじゃ」などと答える。

 なぜツチヤが世間から外れてしまったかは明らかではないが、対人関係が下手なのは確かである。もともと、人との関係が苦手なところに、何年も引きこもって笑いのネタを考え続ける生活を送っていたため、対人関係能力が衰えてしまったのだろう。

 その上、自分は誰よりも努力し、面白いはずだという思いもあり、人に合わせることもしないのである。

 しかし、ツチヤは、世間から認められたいと強烈に願っている。承認欲求が強いのである。自分にはお笑いしかないと思い込み、自分を追い込んでしまっているため、お笑いにしがみつくということになったいるようだ。いわば、お笑いがツチヤのレゾンデートル(存在理由)になっているのである。

【カイブツ】

 映画館の帰りに本屋に寄って、「笑いのカイブツ」を買って、読んでみた。

 本も面白かった。確かに不器用なのだが、映画のツチヤほどエキセントリックではなく、むしろ誠実な人のように思われた。また、大変な努力家でもある。

 本を読んで分かったのだが、「笑いのカイブツ」は、ツチヤ自身のことではない。ツチヤにつきまとっているカイブツなのである。ツチヤがお笑いを辞めて、普通の生活を送りたいと願うたびに、カイブツが現れて、ツチヤをお笑いに引きずりこむのだそうである。長年、お笑いのことばかり考え続けたため、そのような強迫観念に悩まされることになったようだ。

 

笑いのカイブツ

★★★★

 お笑いの構成作家というニッチな分野であるが、何か一つのことに賭けた青春映画としても秀逸。116分。退屈せず、面白く見た。