【あらすじ】ネタバレあり。
四階建てのアパートが舞台。インテリア・デザイナーの女性が所有している。そこに旧友の映画監督が娘を連れて訪問するシーンから始まる。娘は、美術を専攻していたが、仕事がなくインテリア・デザイナーを志望している。
所有者の女性は、父娘にアパートを案内する。一階はレストラン、二階は料理教室とレストランの個室、三階は貸間、四階は貸しアトリエと屋上。素敵なアパートですね、と監督が言い、あなたならタダで貸します、と女性も調子の良いことを言う。
一階に戻り、三人で歓談。デザイナーは、監督の受賞祝いにとワインを開ける。監督はギターを弾いたりする。
監督は近くに用事があると言って、車で出る。女性と娘はワインを飲みながら話す。最初は遠慮がちだった娘は、長年別居していた父の悪口を言い始め、女性に弟子にしてほしい、忠誠を尽くすからなどと懇願する。酒がなくなったので、娘は買い出しに出る。
次のシーンで、監督はアパートを訪問する。しばらく時間が経ったようだ。インテリア・デザイナーは歓迎して、二階で食事をする。シェフの女性も同席する。監督の映画のことを話が盛り上がり、ワインを次々と飲む。娘は、デザイナーの弟子になったものの、一か月と続かなったらしい。監督は家族とうまくいっていないことを打ち明け、シェフの女性も離婚歴があることを明かす。デザイナーが席を立ち、監督とシェフは人生について深い話をする。
次のシーンでは、シェフの女性と監督が三階で暮らしている。監督は、スランプに陥っていて、健康も害しているらしい。シェフが作る野菜などを食べている。レストランには客が来ず、大家からは家賃の値上げを迫られていて、引っ越しも考えなくてはならない。シェフの女性は、旧友に会いに行くといって外出する。それは、監督が会ってほしくない相手だった。一人になった監督は、孤独にさいなまされる。
次のシーンでは、不動産業の女性が監督を訪ねて来る。監督はシェフの女性とは別れたようだ。不動産業の女性は、肉や朝鮮人参を買ってくる。二人は屋上で肉を焼いて食べ、タバコを吸い、朝鮮人参を食べる。監督は、さらにさえない様子である。大家のインテリア・デザイナーとの関係も悪化しているようだ。元妻のシェフは、監督の車で交通違反を繰り返しているらしい。監督は神を見た、などと語る。監督は女性とイチャイチャする。
最後のシーンで、二人は一階に降りて、ドライブに行こうという。不動産業の女性に急用が入ったので、監督はアパートの前でタバコを吸いながら待つ。そこに、買い出しから帰ってきた娘が現れて、父親にタバコの吸い過ぎを注意して、先に中に入る。
【ネガとポジ】
普通に観ていくと、時間の経過で人と人の関係が変化していく様子が描かれているように見える。出会った当初は、新しい関係の予感があり、お互いに興奮していて盛り上がるが、時間が経つとだんだん色あせてきて、嫌な部分も見えてくる。
表面的な部分と裏側の部分がはっきり描かれていて、三人でいるときは和気藹々としていても、一人が外すと陰口を言い始める。世間では成功している映画監督でも家族からは嫌われていて、居場所がないといったような裏側の事情も語られる。つまりは、ネガとポジが描かれている。作品自体がモノクロであるとも響き合っているように思えた。
最後に、オチが仕組まれている。長い時間が経過していると思っていたら、近所に買い出しに行った娘が帰ってきて、「あれっ」となる。解釈としては、①回想シーン、➁長い時間が経っていたと思ったが、中間部分は夢に過ぎなかった(一炊の夢)、③階ごとに似た人物の別の物語であった(パラレルワールド)というなどが考えられる。どうとでも取れるように作られており、それが余韻としての効果を生んでいる。
【らせん】
一人の男の凋落の物語ともとれる。一時は華やかな世界で活躍した映画監督だが、最近は鳴かず飛ばずで、体調もすぐれず、資金繰りにも窮している。外に女性を作っていたので、家族からは見限られている。有名人であり、調子が良く、優しいところもあるので、女性は次から次へと現れる。しかし、臆病で身勝手な部分が現れて、だんだん悪い方向に進んでいく。同じパターンの繰り返しだが、だんだん下っていくのである。つまり、アパートの階段を上がるたびに男の人生は下っていく。アパートの階段はらせんであったか。
【済州島】
会話の中で済州島が時々登場する。たとえぱ、前の住人である絵描きは、家賃を滞納して済州島に逃げた。監督の娘は、デザイナーの元での修行に1か月で音を上げて、今は済州島にいる。監督と再婚したシェフは、監督の元を離れて済州島に住んでいるらしい。監督は、突然現れた神から「済州島に行き、映画を10本撮れ」との啓示を受けたなど。済州島は、自然豊かな観光地で、「韓国のハワイ」とも呼ばれているそうだが、韓国の人にとっては、何か特別な意味があるのだろうか。
WALK UP
★★★★
ホン・サンス監督。舞台はアパートで、ほとんど会話で成り立っている。大がかりな仕掛けがなくとも、深い人生を感じさせることができる。昨年の「小説家の映画」も良かったが、本作も良かった。モノクロの映像の映像も端正で美しかった。