晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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映画「君は行く先を知らない」〜子どもは分かっている

✳︎ネタバレあり。

【あらすじ】

 イランが舞台。父、母、長男、次男の四人家族と犬。車でひたすらどこかに向かう。ハンドルを握る長男は物静か。助手席の母は、次男を叱ったかと思えば、歌謡曲に乗って急にはしゃいだり。髭面で熊のような父は、片足にギブスをはめているが、口だけは達者。幼い次男は、終始ハイテンション。実は、次男には隠している旅の目的があるのだ。

 トルコとの国境の村にたどり着く。長男との別れ。怪しげな覆面男の手引きで、長男は国境を越えて行く。

 家族たちの待機場所になった高原のキャンプ場で、星を眺めながら、兄のことを尋ねる次男に、父は、「兄は、バッドマンの本物のマスクを持って帰って来る」と話してきかせる。

 帰途、病気だった犬が死ぬ。干上がった湖に犬の遺骸を埋めながら、家族はそれぞれに長男との別離を乗り越えようとするのだった。

【家族のバランス】

 長男は、映画が好きな物静かな青年である。何か鬱屈しているように見える。構いすぎる母、能天気な父とは話は合わない。「僕はもう子どもじゃない」と反発する。長男は、自由を求めて外の世界に出たい。そのために、家を抵当に入れ、車も売ってしまった。家族に多大な負担を掛けていることも分かっている。

 父母は、長男を後押ししてやりたい。しかし、別れるのはつらい。二度と会えないかもしれないのだ。最後に父と長男は、川べりで話をする。会話はかみ合っていないが、心は通じ合っている。

 次男は、常に騒いでいる。親のいう事を聞かない。いたずらをばかりし、注意されてもめげることなく、口答えする。しかし、次男が騒ぎ続けるので、雰囲気が暗くならない。いわば、次男は道化役になっている。

 父母は、次男にどう説明すればいいのか分からない。キャンプ場で星空を眺めながら、父は嘘の説明をして、次男と作り話で盛り上がる。それを聴いていた母は、静かに涙を流す。父は、ぐうたらでテキトーだが、勘所はおさえている。

 最後に犬を埋葬する場面で、母に抱かれた次男が、カメラ目線で歌謡曲に合わせた口パクをするシーンがある。本当は、次男はよく分かっていたのではないかと思わせる。

【まとめ】

 本作は、パナー・パナヒ監督のデビュー作。父は、イラン映画界の巨匠ジャフル・パナヒ。若き監督は、イランの若者の現実を描いたのだという。

 国によって事情は様々だが、家族はどこの国でも同じだと思わせる。社会問題だけでなく、家族についてもよく描かれている。

 イランの自然は、厳しいが美しい。ロードムービーとしても秀逸。

 

君は行く先を知らない

社会問題      ★★★

ユーモア&ペーソス ★★★★

映像美       ★★★