晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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映画「アステロイド・シティ」〜誰かさんの悪夢

※ネタバレあり

メタフィクション
 1955年。アメリカ南西部の砂漠の町、アステロイド・シティ。奇抜な発明をした5人の天才少年少女とその家族が招待され、科学賞の授与が行われる。そこにUFOに乗った宇宙人が現れて……。
 という話なのだが、実はこれは脚本家が書いた話を俳優たちが演じているもの。さらに、テレビ番組の司会者が現れ、その脚本家の製作過程の舞台裏をレポートする。
 映画の観客は、映画の中のテレビ番組を見て、その中で脚本家がアステロイド・シティという物語を書いている場面や俳優たちがセリフ合わせをしている場面を見て、さらにアステロイド・シティの物語を見る。さらに、アステロイド・シティの中でもセリフ合わせをしたり、アステロイド・シティから舞台裏に俳優が戻ってきた俳優たちが会話をしたり、そこでもドラマが進行していたりする。

 アラビアンナイトのように入れ子構造になっているが、話の間の境界はあいまいで、複雑である。
【平板な世界】
 最初から、アステロイド・シティはセットであることが示される。山は絵にかいただけ。建物も、劇中で使われるものだけ。薄っぺらい平板な町である。

 登場人物はみんな早口で、会話は一方通行。母が亡くなったことを子どもたちにどう伝えるかというエモーショナルなテーマも淡々と進行していく。天才少年少女の奇抜な発明品とおかしな振舞い、不動産の自動販売機、主催者の奇妙な演説、妙な小学生の一団等々、場面場面は面白いが、非現実的なことが脈略なく、次々と起こる。宇宙人だって、いかにもという感じで、安っぽい。

 舞台裏でも、意味不明な場面がドタバタと入れ替っていく。

【夢の中】
 最後あたりに、脚本家が「登場人物が、人生の心地よい眠りに誘われる」と言い、居並んだ俳優達が"You can't wake up if you don't fall asleep"(眠りがなければ目覚めはない)と連呼しながら、次々と眠り出すというシーンがあった。

   これは、誰かが見ている夢なのかもしれない。この町での出来事の起こり方は、夢に似ている。夢の中では、辻褄があっているように思っていても、起きてから思い出すと、デタラメだったということはよくあることだ。

 夢から覚めたと思ったら、別の夢だったということもある。起きたと思っても、まだ夢の中なのだ。これは、熟睡ができなくて、浅い夢にうなされ続けている人の悪夢なのかもしれない。

 すると、この夢を見ているのは、誰なのだろうか。

【一回では分からない】
 砂漠の町だけあって、明るく、さらっと乾いた現実感のないポップな世界。ちょっと哲学的な匂いもする。
 色々な寓意が込められているようだ。構造が複雑で、情報量が多く、一回では見切れない感じであった。

 有名な俳優が多数出演しているようなので、そういう方面での楽しみ方もできそうである。

 
 アステロイド・シティ
ポップアート ★★★★★
哲学的    ★★★