晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

映画「波紋」~深みのない人々

 東日本大震災の直後に、夫が出奔する。それから妻は、新興宗教にはまる。庭は枯山水になり、リビングには祭壇が設えられ、家中に「緑命水」の瓶が並べられる。何年かぶりに帰って来た夫は末期のガンという。妻は怒りを押し殺して、冷ややかに接する。九州で就職して戻ってきた息子は、聴覚障がい者の婚約者を連れてくる。妻は、婚約者に別れて欲しいと言う。夫は亡くなり、一人残った妻は、喪服を着て庭でタンゴを踊る。
 
 演出なのか、過程が省略されている。夫が出て行った場面の後、すぐに家が様変わりした場面になる。妻が新興宗教にはまった過程や、夫がどこで何をしていたかは、分からない。妻がパート先で仲良くなった清掃員の女性の部屋に片付けにいく場面があるが、ゴミ屋敷の場面のから、いきなり片付いた場面になる。夫を息子が介護している場面の後に夫の出棺の場面になる。 
 
 妻は、表面的な人である。影響されやすく、新興宗教の集まりに行けば、それに染まるし、常識のある清掃員の女性と話すとまともになる。息子に「タンゴでもやれば」と言われると、タンゴを踊り出す。楽しそうに自転車を漕いでいる場面もあるが、心から楽しんでいるようには見えない。変なところで笑い出したりする。

 夫は、鈍い人である。汚い格好で帰ってきて、最初は腰が低いが、すぐになれなれしくなる。夫が出奔した理由は不明のままである。妻は、震災後の放射能から逃げたと思っているし、息子は、妻から逃げたかったのだと言う。なお、息子自身が九州の大学に入ったのは、おかしくなった母親から逃げたかったからと言う。

 震災、宗教、がん、障がい者差別、家族、更年期障害、カスタマーハラスメント、ゴミ屋敷、ご近所トラブル等々色々なテーマやエピソードが出てくるが、各エピソードのつながりはない。一応、「水」つながりにはなっているが、少しわざとらしい感じがした。バラバラな感じは、登場人物たちの底の浅さを思わせた。

 ブラックユーモアが効いている場面もあり、笑っている人もいた。

 過程が省略されること、つながりがないことなど、底が浅いことなど、現代人の特徴を誇張して表現しているように思えた。多くの人が、多くの問題と関わりすぎて、生き方が浅くなっているのである。

 やはり、シンプルに生きる方が良いようである。