晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

映画「遠いところ」~私を取り残さないで

【どんな映画?】
 沖縄市のゴザ。アオイ17歳は2歳の子持ち。キャバクラで生活費を稼ぐ。夫は働かず、夫婦げんかの末、暴力を振って家出。キャバクラが摘発されアオイは職を失う。夫は暴力沙汰を起こして示談金を請求される。誰もあてにできず、昼間の仕事の時給は安く、売春に手を染める。次第に自暴自棄になり、子どもも放置。児童相談所が来て子どもを連れて行かれる。唯一無にの親友も自殺してしまい……。と、転落一方で救いのない展開。
 沖縄は、子供の相対的貧困率が高く、若年層の出産率も全国一位とのことで、現実に起こっている問題に光を当てた作品である。
【悪循環】
 アオイは、「おばあ」に育てられたようだ。父母は別れている。父は別の家庭を持っており、冷たい。母は、拘置所に入っている。
 アオイは、ほとんど手を掛けられずに育ったのだろう。異性関係に居場所を求め、15歳で妊娠、出産。高校に進学できず、スキルもなく、できることは水商売くらいしかない。しかし、それも警察の取り締まりで、続けられなくなる。
 夫は、ダメな男である。気持ちが弱く、職場で怒鳴られて仕事が嫌になったのか、アオイにたかって遊んでいる。働け、と言われると逆ギレする。
 頼れる人はいない。「おばあ」も突き放した態度である。キャバクラ仲間の親友が一人おり、本気になって心配してくれるが、自分から拒絶する。そして、親友も問題を抱えていたのか、自殺してしまう。
 夫からの暴力を受け病院に行ったり、夫の傷害事件で弁護士が入ったり、キャバクラの摘発で警察が取り調べをしたり、子どもの放任で児童相談所が介入したりと、公的支援が入るきっかけはあるが、アオイも都合の悪いことは隠すし、母親としての責任を追及するされるばかりなので、支援にはつながらない。
 お金を稼ぐしかないと、視野狭窄になり、自分の身体を売るしかないと思い詰めてしまう。そして自尊心を失い、自傷的な行為に走り、精神的にも混乱していく。
【どうすれば】
 しかし、アオイは17歳である。普通なら高校二年生。児童福祉法上は、児童であり、保護の対象である。出産したからといって、大人としての役割を担わせるのは、荷が重すぎる。しかも、それまで十分な教育を受けておらず、周囲の支援もなく、経験も、知識もスキルも乏しい人である。
 それは、たとえば、泳げない人をいきなり海に放り投げて、自力で泳ぐように言って、ようやく犬かきができるようになったら、それではダメでクロールで泳げと言い、しかも重りを頭に乗せるようなものである。
 それでやっていけというのは、無理というものだろう。
  まずは、干渉されず落ち着いて住める部屋、おいしい食事、それに暖かい言葉、気遣い、心配りなどいいったものが必要だろう。しばらくは働かなくてもよいようにし、借金の清算もする。徐々に家事手伝いくらいから始め、子育ての支援もしながら、希望に応じて、働きに出たり、自立できるようなスキルを身につけられる機会を設ける。甘やかすのかという意見もあるかもしれないが、これまで、そういうものを貰えなかったのであれば、それを受け取るのはまったく正当なことであるし、国はそれを与える義務がある。
 もっとも、今までの生い立ちや、この人の未熟さから、そういう支援を拒否するかもしれない。自分のやり方を変えるというのは、なかなか難しいものである。いかにも公的支援という感じよりも、地域にあるネットワークを生かした支援ができれば、その方が望ましいだろう。
 これは沖縄の話だが、日本全国、似たような事例はあるのではなかろうか。
 国も「誰一人取り残さない社会」を目標に掲げ、子ども家庭庁も立ち上げられたところなので、このような問題にも対処していただきたいとは感じた(もうしているのかもしれない)。

 ただし、これはフィクションなので、実際のところは、よく分からない。この映画を見て、単純にそう思っただけのことではある。

社会派度 ★★★★★