晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

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映画「火の鳥 エデンの花」~テヅカは偉大なり

【あらまし】

 手塚治虫の「火の鳥:望郷篇」を映像化したもの。おおむね、原作に沿って作れらているが、設定にいくつか違いや省略があるほか、結末が異なっている。

【あらすじ】※パンフに書いている程度に留めます。

 地球からロケットに乗って逃げて来た若いカップル、ロミとジョージ。辿り着いた惑星「エデン17」新天地にしようとするが、ジョージは事故で命を落とす。折しも、ロミは身籠っていて、男の子を出産。カインと名付ける。カインが成長するにつれ、このままではカインが独りぼっちになってしまうと、ロミは13年の人工冬眠に入る。しかし、機械の故障で目が覚めたのは1300年後だった。そこでロミが目にしたのは、カインと不定形生物ムーピーとの間の子孫が栄える巨大な町。ロミは女王としてあがめられる。やがて老年となったロミは、緑あふれる懐かしい地球を一目見たいと願う。それを知った少年コムは、不思議な念力の力を発揮して、「岩船」を動かし、ロミを連れて地球を目指す。

 旅の途中で、宇宙飛行士牧村と遭遇して乗せることになったり、宇宙の悪徳商人ズダーバンと取引したりする。しかし、ようやくたどり着いた地球は、変わり果てた姿となっていた‥‥。

【原作との大きな違い】※以下、主に原作(角川書店版)のネタバレを含みます。

①子孫の増やし方

(原作)ロミが人工冬眠に入ったのは、成長した息子との間に子どもを作るためであった。ロミはカインとの間に6人の子をもうける。しかし、全員男の子だったので、ロミは再度、人工冬眠に入り、今度は6人の息子の長男ロトとの間に子をもうける。ところが、生まれてくる子はやはり男の子ばかり。

 6人兄弟の末子セブは、愚鈍だが純粋な心の持ち主。セブは、自分ならロミとの間に女の子を作れると確信して、ロミを略奪して逃げ、兄たちに追放される。それを知った火の鳥は、ムーピーの住む星に行き、ムーピーを一匹もらい受けて、「エデン17」に送り込む。セブは、ロミの姿に変身したムーピーとの間に、たくさんの子どもをもうける。子どもたちは、目が見えず、耳もないが、頭に触覚が付いている。セブは女の子たちを連れて、ロトの息子たちのところに行き、女の子たちをロトの息子たちに娶らせる。ムーピーの子孫は成長が早く、子孫はどんどん増える。

(本作)ロミの目覚めが1300年後に引き延ばされたことを知ったカインは絶望するが、それを見かねた火の鳥がカインの元にムーピーを遣わし、カインはムーピーとの間に子孫を作る。

②タイムスケール

(原作)130年程度。

(本作)1300年を超える。

③地球

(原作)移民の受け入れは排除しているが、さほど荒廃まではしていない。

(本作)マスクなしでは息もできないほど、大気汚染が広がり、荒れ果てている。

④結末

(原作)悪徳商人ズダーバンの若返り装置によって、年老いたロミは、若さを取り戻す。しかし、細胞に無理をさせているため、ロミの寿命は残り3日。地球に戻ったロミは、最後の一日を美しい自然の中で過ごし、満足して死ぬ。宇宙飛行士牧村は、自己保身のためにコムを殺す。コムは、死ぬ前に大輪の花に変身する。

 「エデン17」は、ズダーバンのたくらみによって悪徳が栄えてしまい、火の鳥によって滅ぼされる。牧村は、ロミの遺言に従って、ロミの遺体を「エデン17」に埋葬する。

(本作)若返ったロミとコムは地球に辿り着くが、地球は環境汚染で荒れ果てた世界。政府の追手と牧村に追われるが、何とか脱出して「エデン17」への帰還を果たす。そこで待っていたものとは……。

【毒抜き】

 上記のとおり、原作は息子や孫と交接を繰り返してまで子孫を増やそうとした女性の顛末を描いたもの。子孫繁栄のためには、手段を選ばないというもので、まあ、凄まじい話である。

 本作では、ロミの冬眠期間が長くすることで、その部分を回避している。その分、後半の比重が大きくなり、地球の環境破壊などの現代的なテーマを織り込んでいる。

 また、原作では、物事は都合良く運ばず、ロミは寿命が尽きて死んでしまうのだが、本作では、わりとハッピーな終わり方をしている。

 好みの問題だろうが、原作の方がすんなり来る感じはした。

 アニメなので、子どもも観るだろうし、毒を抜いてマイルドにしたのだろう。確かに、原作のままだと、子ども説明を求められると、ちょっと困るかもしれない。

 その一方で、絵がきれいで、アニメ独特の生き生きとした動きがあり、活劇の部分も多いので、楽しめる作りになっている。

【テヅカは偉大なり】

 本作を観たことをきっかけに、「火の鳥:望郷篇」を読み返してみた。よくこんな奇妙な話を思いついたものだと感心する。

 50年近く経っても映画化されるのは、そうさせるだけの力があるのだろう。

 テヅカは偉大なり。

 

火の鳥 エデンの花

アニメーション ★★★★

エンタメ    ★★★