シモーヌ・ヴェイユは、フランスで一番人気のある女性だそうである。私は、この映画で初めて知った。日本の多くの人がそうではないか。
それに同姓同名で、時期も同じ頃のフランス人哲学者がいる。こちらなら、うっすら聴き覚えがあって、ちょっと混同しかけたが、別人である。これも初めて知った。
さて、本作は政治家シモーヌ・ヴェイユの生涯を描いたものである。歳を取ったヴェイユが自伝を書きながら人生を振り返るという形を取っている。だから、途中で主人公が死んだり、離婚したりする心配をせずに見ることができた。
時系列ではなく、様々な時代のエピソードが順不同で並べられる。終盤に、16歳のときの強制収容所での苛烈な経験を想起する場面が置かれる。
後でウィキペディアを読んでみたら、映画は史実に忠実に作られていた。最近亡くなった人だし、自伝もあるので事実は調べやすかったのだろう。
いや、すごい人がいたものである。NHKの朝ドラでは、自立した女性が繰り返し描かれているが、それを何十倍かにしたような話であった。
根っこには、若い頃に強制収容所に収容され、筆舌を尽くしがたい体験をして、家族を失い、九死に一生を得たことがある。そのためか、刑務所に収容される人たちや女性の権利を守ることに生涯をかけ、世界平和に尽力し、欧州議会議長にまでなったのである。
演説は中々激しい。戦闘的である。これも、弱い立場の人たちを守り、戦争を止めるためである。星新一の小説で、平和の神は戦争を止めるために、言動は荒々しくなり、戦争の神は戦争を起こさないためできるだけ大人しくしているというのがあった。それを思い出した。
こういう人は、まれに存在する。職業でなく、天職という。本人もそう言っている。英語で言えばコーリング(calling )である。つまり、呼ばれた人である。
本人もこういう風になりたくてなったのでもないだろうし、なろうと思ってもなれるものでもない。今だって差別はあるが、色々な人の権利が尊重されるようになったのは、こういう人のおかげである。
死後はパンテオンに夫と共に埋葬されている。神になったのである。
ちなみに、夫もよく出来た人であった。
「シモーヌ」
歴史 ★★★★
ヒューマン ★★★★★