晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

2023-01-01から1年間の記事一覧

映画「シモーヌ」〜呼ばれた人

シモーヌ・ヴェイユは、フランスで一番人気のある女性だそうである。私は、この映画で初めて知った。日本の多くの人がそうではないか。 それに同姓同名で、時期も同じ頃のフランス人哲学者がいる。こちらなら、うっすら聴き覚えがあって、ちょっと混同しかけ…

映画「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」〜生き延びるために必要なもの

※ネタバレあり 【あらすじ】 ウィーンで女優の妻とともに優雅に暮らす公証人バルトーク。自信にあふれ、誇り高い男。音楽と文学をたしなみ、美食と舞踏を楽しむ毎日を送っている。 1938年、ナチスがオーストリアに進軍する。高を括っていたバルトークだが、…

映画「658km、陽子の旅」〜道程が心を開く

✳︎ネタバレあり 【作品のあらまし】 東京で一人暮らしをする42歳独身のフリーター陽子。引きこもりの、さえない暮らしぶり。 ある日、従兄弟が訪ねてきて、故郷の青森の父が急死したと知らされる。従兄弟一家の車で青森に向かうが、サービスエリアで休憩中に…

映画「古の王子と三つの花」~平面の美

【どんな作品?】 アニメーション作品。三つの話が語られる。①古代エジプトのファラオの話 小国の若い王は、恋人の母の反対で結婚できない。王は、神々に守られて、平和的にエジプトのファラオになり、恋人を后に迎え入れる。②中世フランスの領主の息子の話 …

【ネタバレあり】映画「君たちはどう生きるか」〜子どもの終わり/往きて還りし物語

※ネタバレあります。 【あらすじ】 主人公の眞人(マヒト)は、戦災で母を亡くし、父とともに母の実家に疎開する。父は、母の妹(ナツコ)と再婚する。ナツコは父の子を身籠っている。 母の実家は古い大きな屋敷であり、奇怪なことがよくおこる。屋敷の裏山…

映画「SAINT OMER/サントメール・ある被告」~フランスの刑事裁判

【あらすじ】 アフリカにルーツを持つ、フランスで生まれ育った女性作家ラマは、海辺の町サントメールで行われた裁判の傍聴に行く。作品の取材のためである。実は、ラマは妊娠をしており、不安を抱えている。 生後15ヶ月の娘を海辺に置き去りにして、殺害し…

映画「遠いところ」~私を取り残さないで

【どんな映画?】 沖縄市のゴザ。アオイ17歳は2歳の子持ち。キャバクラで生活費を稼ぐ。夫は働かず、夫婦げんかの末、暴力を振って家出。キャバクラが摘発されアオイは職を失う。夫は暴力沙汰を起こして示談金を請求される。誰もあてにできず、昼間の仕事の…

映画「キャロル・オブ・ザ・ベル」~抵抗の歌声

【あらすじ】 第二次世界大戦前夜。ポーランドのスタニスワヴフという街が舞台。 ユダヤ人一家のアパートに、ポーランド人一家とウクライナ人一家が入る。それぞれの夫婦の間には、女の子がいる。 ポーランド人夫婦とウクライナ人夫婦は、警戒し合っているが…

映画「小説家の映画」~人生の回り道

【どんな映画?】 韓国のホン・サンス監督の作品。書けなくなった女性小説家が、映画に出なくなった女優と意気投合して、短編映画を撮るという話。 ストーリーはなく、全編会話が続く。シーンの流れは以下の通り。 ①小説家が、地方の町で古書店を営む後輩を…

映画「To Leslie/トゥ・レスリー」〜人生を立て直すには?

【ストーリーはシンプル】 シングルマザーのレスリーは、6年前に宝くじを当てた。そして散財の挙句、無一文のアル中になる。都会で働く息子を頼るが、愛想を尽かされ、故郷の町に送り返される。町の連中からは笑い者にされるが、町外れでモーテルを営む男に…

映画「遺灰は語る」~死者から見た世界

【二つの物語の謎】 二部構成。「遺灰は語る」(約60分)の後に、短編「釘」(約30分)が置かれる。 「遺灰は語る」は、ノーベル賞作家ルイジ・ピランデッロの遺灰がローマから故郷のシチリアに帰るまでの旅を描く。 「釘」は、ピランデッロの遺作を映像化したも…

映画「青いカフタンの仕立て屋」〜モロッコ版「こころ」?

※ネタバレ注意 【意外な展開】 「昔ながらの職人が妻と慎ましく暮らすしみじみとした話」かなと思って観ていたら、途中に「あれ?」と思う場面が何回かあって、次第に「あれあれ」という展開になって、「何だそういうことか」となったのであった。 【実は】 …

映画「探偵マーロウ」〜通好みのエンタメ

【どんな映画?】 マーロウは、個人営業の初老の探偵である。もともとロサンゼルス郡検事局の捜査官だったが、事情で退職している。依頼者は、美しい女性。失踪した愛人を探してくれという。その愛人は、交通事故で死んでいるはずだったが……。調査に乗り出し…

映画「逃げきれた夢」〜何から逃げるのか?

【あらすじ】 定時制高校の教頭の男。定年まで後一年。妻との関係は冷え切っていて、娘に話しかけても避けられる。 職場では、良い先生ぶりを発揮する。若い教員を気遣い、生徒の相談に乗る。タバコの吸い殻を集めて回るが、わざと音を立てて、生徒が逃げら…

映画「aftersun/アフターサン」~まばゆい日々と憂うつ

【あらすじ】 イギリスから、トルコの片田舎のリゾート地にバカンスに来た父と娘。 父はまだ、若い。31歳の誕生日を迎えたばかり。娘は11歳。思春期の入口に立っている。実は、二人は別々に暮らしている。娘が幼い頃、父と母は離婚したのだ。 父が用意し…

『47都道府県女ひとりで行ってみよう』益田ミリ

月に1回、47都道府県のどこかに行ったという記録である。著者はイラストレーター益田ミリ。33歳から37歳にかけて足かけ四年、かかった費用は、合計220万円。 泊まるのは主にビジネスホテルで、移動手段も飛行機や新幹線など普通である。大抵は1泊2…

映画「ウーマントーキング」~話に花が咲く

【ネタバレ注意】 キリスト教の一派の閉鎖的なコミュニティの中で起きた一連のレイプ事件。男たちが留守の二日間に、女たちは男たちと闘うか村から逃げるかを話し合って決める。 ほとんどが話し合いの場面。議論やディベートではない。トーキングである。最…

映画「怪物」~怪物のもやもや

【ネタバレ注意】 湖のある地方の町が舞台。 始めに火事が起こる。 火事を起点として、三つの視点からの物語が描かれる。 第一の視点は、小学校高学年の息子と暮らすシングルマザーから。思春期を迎えつつある息子の変化に戸惑う。息子の奇妙な言動が続き、…

映画「パリタクシー」~長い寄り道

パリの外れにある老人ホームに入るためにタクシーに乗った老女と中年運転手の話。 長い寄り道をしながら、92歳の老女が人生を振り返る。 老女の人生はなかなかに激しい。戦争。未婚の母になり、新しい夫からのDVと復讐、裁判。悲しいことの方が多いが、幸…

映画「Tar/タ―」~権力に捉われた人

成功した女性指揮者の転落譚。 クラシックの世界も楽ではない。ベルリンフィルの指揮者になっても、ちっとも幸せではない。 この人は一体、何がしたかったんだろう。とにかく努力する。無理をしている。人を攻撃する。敵をやっつける。えこひいきする。地位…

映画「生きるLIVING」~リメイクの面白さ

黒澤明の「生きる」のリメイク版。 リメイクといっても、あのカズオ・イシグロが脚本を書いている。(「石黒和夫」だと普通の名前なのに、カズオ・イシグロと書いた途端に知的な感じがするのは不思議だ。) 黒沢明の「生きる」をDVDで観たのは、ずいぶん…

映画「波紋」~深みのない人々

東日本大震災の直後に、夫が出奔する。それから妻は、新興宗教にはまる。庭は枯山水になり、リビングには祭壇が設えられ、家中に「緑命水」の瓶が並べられる。何年かぶりに帰って来た夫は末期のガンという。妻は怒りを押し殺して、冷ややかに接する。九州で…

映画「EO(イーオー)」~ロバから見た世界

EO(イーオー)は、ロバの名前である。 サーカスのロバが動物愛護団体に保護されて、ロバ牧場に入れられたが、逃げだし、ウロウロする。その間に色々な人間が関わり、連れ回されたり、捕まえられたり、暴力を振るわれたり、保護されたりする。ポーランドが舞…

映画「アダマン号に乗って」~芸術と対話

アダマン号は、セーヌ川に浮かぶ船のようなデイケアである。精神疾患の人たちが通っている。すごい演技だなと思っていたら、これはドキュメントで実際の利用者さんたちが出ているのだった。ストーリーはない。日常が描かれ、時々、インタービューが入る。 ア…