晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

佐川美術館〜さざなみの美術館

   佐川美術館は、滋賀県守山市の琵琶湖畔にある。宅急便で有名な佐川急便の創業40周年記念事業の一環として開館された。

 「湖畔に佇むように建つ、こぢんまりとした美術館」を想像していたのだが、訪れてみると、意外と大きかった。湖畔ではあるが、湖に面しているのではなく、古代の倉庫を思わせる近代的な平屋の建物が二棟並んでいて、その周りが池のように水が張り巡らされている。

意外と大きかった。切妻造りの二棟の建物。


 9時半の開館に合わせて行ったが、さほど待っている人はおらず、カップルや家族連れなど20人くらい。予約制であらかじめチケットを買っていたので、スマホの画面を見せて入場する。なお、駐車場は無料である。

 入り口までの回廊は、池に面していて、佐藤忠良蝦夷鹿の像などが出迎えてくれる。

 エントランスホールを入ると、佐藤忠良の女性像が三体展示されている。

 平屋で地下一階がある。一階の展示室は三部屋あり、内二部屋は、佐藤忠良平山郁夫の作品が常設展示されている。残り一部屋は展覧会の会場、地下1階には陶芸家の樂直入作の茶器の展示室がある。そのほか、カフェ、ショップなど。別に茶室もあるが、観れる日が決められている。

 当日は、髙山辰雄展が開催されていた。

 髙山辰雄は、大分県の出身。1912年生まれ。旧制中学卒業後、親の反対を押し切って、東京美術学校(現東京芸大日本画科に入学。その後、力をつけて首席で卒業。卒業制作は、大学買い上げとなる。その後は、落選が続いた時期もあったが、ゴーギャンを知り、その影響を受ける。その後活躍し、東山魁夷らと並んで、「三山」と称される。聖家族などの作品に取り組み、晩年は生命をテーマにした母子像などを描く。2007年没(95歳)。

 展覧会は、髙山辰雄のキャリアに沿って、若い頃の作品やゴーギャンの影響が強い時期、故郷の大分の風景を描いたもの、静物画、聖家族のシリーズ、晩年の母子像などがテーマごとに展示されていた。

 卒業制作の作品「砂丘」は、砂浜で女学生が座っているというもので、色鮮やかで細部にわたって詳細に描かれている。首席で卒業となり、学校買い上げとなった作品。若いころから技量が優れていたことが分かる。

 年代やテーマごとに追っていくと、絵を志した一人の若者がまずは技量を身に付け、自分の表現を模索して成功し、最後には自分の表現したいものを描いたという軌跡が読み取れる。髙山辰雄の生涯のテーマは、生きることや生まれること、母と子といったものにあるようであった。表現はだんだんとシンプルになり、様式化されていく。男性はほとんど登場せず、女性と子どもが中心であった。

 次に佐藤忠良の展示室を見る。「彫刻家のアトリエ」展ということで、佐藤忠良のアトリエを紹介する展示であった。

 佐藤忠良も、1912年生まれである。はじめは絵画を志したが、ロダンやマイヨールに感銘を受けて彫刻家となった。東京美術学校を卒業して、日常生活に見える人間の美を追求した作風で知られる。2011年没(99歳)。

 彫刻(塑像)の主なモチーフは、人間である。人の姿を似せて作る。佐藤忠良の場合は、服を着たり、帽子を被ったものもあるが、基本的に裸体であり、ほとんどが女性の裸体である。素人目には、ポーズは違えど似たように見えるのだが、作り続けるからには、追究すべき何かがあるのだろう。佐藤忠良は、長年の間、アトリエに入るとコーヒーを飲んで制作をはじめ、一日を終えると寝るといった規則正しい生活を続けていた。

 芸術家や作家、学者など優れた仕事を残した人は、案外、規則正しい日課を送っていることが多い。*1

 結果、佐藤忠良も多くの素晴らしい作品を残し、晩年まで元気で長生きした。なお、絵本の『おおきなかぶ』の挿絵を描くなど、絵本も残している。

 疲れてきたので、休憩。中庭には浅い池になっていて、常にさざ波が起こるようになっている。日の光がさざ波に揺れて、美しい。

水をたたえた中庭

 カフェでサンドイッチとコーヒーをとる。セットで1,300円。サンドイッチはボリュームがあり、おいしかった。

 平山郁夫の展示室に入る。平山郁夫の生涯や画業が作品とともに紹介されている。平山郁夫東京美術学校日本画科の出身。東京芸大助手、助教授、教授、学長と順調にキャリアを積み上げた人である。初期は玄奘三蔵をテーマにした『仏教伝来』を描き、それがシルクロードにテーマが広がり、ユーラシア大陸や東南アジアの各地を旅して、多数の作品を描いている。風景画が多い。発掘調査隊に同行したり、遺跡の保存に携わり、教育者でもあり、多方面で活躍した人である。

 展示は、本格的に描かれた作品と、スケッチ風の線描に色を付けた作品があり、後者の方は親しみが持てた。

 最後に地下に降りる。降りたところがロビーとなっていて、壁面に地上の池のさざ波が映るようになっている。幻想的である。

 

さざ波が映る壁

 地下は、樂直入という、代々続く樂家の十五代目の陶芸家の作品が展示されている。茶室のような構成の暗い部屋に茶器が宝石のように浮かんでいた。

 滞在時間約2時間。時期ごとに展示の入れ替えがあり、定期的に企画展も開催されている。静かに過ごすには、良い場所であった。

 

 

 

 

 

*1:「天才たちの日課」クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブではない日々 メイソン・カリー著 フィルムアート社