晴れ、ときどき映画と本、たまに旅

観た映画、読んだ本、訪れた場所などの記録

映画「瞳をとじて」〜失われた時を求めて

【あらまし】

 スペインが舞台。老年を迎えた作家ミゲルは、片田舎の海辺の町で静かに暮らしている。昔は映画監督だった。二作目の作品『別れのまなざし』を撮影中、主役が失踪してしまい、映画を断念する。その作品の主役は、ミゲルの親友フリオだった。

 作家として成功し、今は引退して翻訳で細々と暮らすミゲル。ドキュメント番組「未解決事件」にフリオの失踪事件のネタを提供し、未発表のフィルムを放映することで、報酬を得ようとする。そして、それは封印していた過去を辿る旅の始まりとなった。

 番組を見た老人施設の職員から、フリオらしき人物が入所しているとの情報が入る。ミゲルが訪れると、果たしてそれはフリオだった。しかし、フリオは逆行性健忘で、過去の記憶をすっかり失っていたのだった。

 そんなフリオに、ミゲルはさまざまな働き掛けをして、フリオの記憶を呼び覚まそうとするのだが‥‥

【過去の探偵】

 番組のディレクターに頼まれ、ミゲルはフリオの生き別れた娘アナと会う。貸し倉庫に保管していた映画の資料を見てみたり、当時の編集担当マックスと会って、未完成の作品を見直す。フリオと三角関係にあったかつての恋人ロカの別荘を訪ねて語らう。少しずつ証拠は集まるが、謎は深まるばかり。なぜ、フリオは消えたのか。

 フリオは多くの問題を抱えていた。迫りくる老いに立ち向かえなかった。彼は、思い通りに消えたのかもしれない……

【記憶を蘇らせる】

 海辺の老人施設にフリオらしき人物がいると聞き、ミゲルはすぐに会いに行く。しかし、フリオは自分の半生をすっかり忘れている。ミゲルを見ても分からない。しかし、『別れのまなざし』で使った少女のポートレートをしおりに使っていた。

 フリオは施設に泊まり込んで、ミゲルの記憶を蘇らせようと試みる。写真を見せてもダメだが、昔の歌を歌うことはでき、かつて在籍した海軍で覚えた縄の結び方は覚えている。最後にミゲルは、フリオと関係のあった人々を集め、未完成の映画『別れのまなざし』上映会を催す。

失われた時を求めて

 なぜ、ミゲルはフリオの記憶を呼び覚ますことに躍起になるのか。これはフリオのためばかりではないようである。そもそも、フリオが嫌な過去を忘れたくて忘れていのならば、そっとしておいた方がいいとも思える。

 それは、ミゲル自身が老いに向かい合っているからだろう。自らの人生を振り返り、それがどうだったのかを考えたいのだ。ミゲルの人生にとって、フリオの失踪は、欠けたピースだったのだ。だから、フリオに戻ってきてもらい、語らい合い、真相を知りたかったのだろう。「あれはいったいどういうことだったのか」と。

 これからミゲルはどういう人生を送るのだろうか。

 

瞳をとじて

★★★★

 169分。語りが中心の静かな映画。ちょっと長めだが、ミステリー的な要素もあって、飽きさせない。海辺での暮らしは、『PERFECT DAYS』を思わせる。人生の締めくくりという普遍的なテーマでもあり、考えさせられる。