【あらまし】
1986年制作のイギリスのアニメーション映画。第二次世界大戦から40年後。イギリスの片田舎の一軒家で年金暮らしをする夫婦が核戦争に巻き込まれるなりゆきを描く。
夫は、図書館で新聞を読み、まもなく核戦争が始まると知る。政府発行のパンフレットを持ち帰り、書かれている通りに自宅の中に核シェルターを作る。食料や水を用意したところで、ラジオから敵国の核ミサイルが3分後に到達するというニュースが流れる。
いそいそと自作のシェルターに隠れる二人。そこに物凄い光と熱、轟音が。
数日後にシェルターから出てきた二人が目にしたのは、瓦礫と残骸の荒れ果てた世界。どうにか日常を取り戻そうとするが、水道は止まり、ラジオも聞こえず、電話も通じない。やがて水も尽き、吐き気や頭痛がして、身体に異変が現れる。それでも二人は、政府からの救助が来るのをひたすら待つのであった‥‥
【危機感】
今から、37年前。この時期は、米ソが軍拡競争を繰り広げた冷戦時代。戦争が起こることへの危機感が強かったのだろうか。
核戦争にどれだけ近づいているかを知る、終末時計というものがあったことを思い出して、見てみた。すると、この翌年に核軍縮条約が締結されたことで、6分前に戻り、その後、冷戦の終結やソ連の崩壊で、17分前まで戻っている。なんと現在、ロシアのウクライナ侵攻などで90秒前と今までで最も進んでいる。
これ自体に科学的な根拠は乏しいともされ、核戦争だけでなく、気候変動や新型コロナウイルスの蔓延なども考慮されている。とはいえ、核爆弾が使われる可能性は高まっているのに、普段あまりそれを考えることはない。
先日、NHKのドキュメンタリーで、85歳の被爆者の女性がアメリカの田舎町に行き、講演をして人々と対話をするというものを見た。アメリカの人々が普通に「広島のことなど聞いたことがない」「原爆投下で多くの命が救われた」「抑止力には核が必要」と言っているのを見て、えっと思った。また、その女性との対話を経て、人々の考えが変わっていく様子に、心が動かされた。
どんなきっかけでも良いので、関心を持ち、話し合うということが重要である。
【善良な市民】
このイギリス人の夫妻は、最後まで政府を信じている。心配性の妻に対して、夫はできるだけ物事を楽観的に見ようとする。政府に対する信頼感の強さは、「ゆりかごから墓場まで」と言われた、イギリスの手厚い社会福祉制度が背景にあるのだろうか。
夫妻は、ナチスドイツは敵だと思っているが、スターリンやルーズベルトには親しみを抱いている。第二次世界大戦で防空壕に隠れたことなどは、楽しい思い出になっていて、核シェルターも同じ感覚で作っている。
最後まで信じ切っているゆえに、状況が絶望的となり、だんだんと弱っていく姿を見るのは、切ないものがあった。
衝撃的なシーンがなく、柔らかいアニメーションだけに、伝わりやすいところもあるようだ。
★★★