【あらまし】
東京都のとある公立小学校の1年を記録したドキュメント映画。入学する1年生と卒業する6年生に焦点をあてて、無邪気な子どもたちが、どのような教育を受けて、協調性や勤勉性を身に付けていくか、ということが描かれる。
【一年生】
小学校への入学は、日本社会への入り口である。入学前に各家庭では、名前を呼ばれたときの返事の仕方、手の挙げ方、給仕の仕方などの練習がなされる。もちろん、入学したばかりの子どもたちは、はねたり、飛んだり、その辺に寝転んだりしているが、ベテランの女性教諭は、一人一人にやさしく言い聞かせて、望ましい行動ができるように導いていく。次第に子どもたちは、決まりに従った行動が取れるようになっていく。手をまっすぐにあげ、列を作って並び、掃除をし、靴をきちんと揃えられるようになる。そして一年が経つころには、新一年生を迎える上級生として、しっかりとした行動ができるようになる。
女の子たちがこんな会話をしていた。
「わたしたちって、心臓のかけらだよね」
「一人ひとりがバラバラだと、心臓がこわれちゃう」
一年間で協調性が見事に身に付いたことが分かる。
【6年生】
卒業の年である。中学校に向けて、さらに勤勉性を高めていかねばならない。熱心な若い男性教諭は、「自分の殻を破れ!」と発破をかけ、自らの頭で大きな卵形の容器を破るパフォーマンスをしてみせる。
多くの子どもは、学校生活を楽しんでいる。決まりを守り、下駄箱の靴の並べ方のチェックにも何の疑問を持つことなく取り組む。
もちろん、課題を出さないなどのいい加減な生徒もいる。担任教諭からは、「これでは中学校ではやっていけない」などと言って厳しく指導する。
卒業式。練習では、先生たちとの温度差があったものの、式本番には整然として、立派な卒業式に仕上がる。
【行事】
年間行事は、教育の絶好の機会でもある。二つの場面が印象に残った。
一つは、運動会。
6年生は、縄跳びを取り入れた集団演技をすることになっている。放送部員のある男子生徒は、足は速いのに、縄跳びは苦手である。二重飛びなどの技ができない。ペアになった女の子からも「もう少し技を練習した方がいい」と言われてしまう。指導担当の教諭は、「結果ではなく、過程が大事なんだ。殻を破れ」と熱く語る。彼は自宅でも一生懸命練習する。そして本番。技は見事に決まり、拍手喝采を浴びる。
二つ目は、新入生を迎えるための合奏。
新しい1年生を迎えるために、1年生たちは歓迎の音楽を合奏する。多くの子どもはピアニカやトライアングルの担当だが、太鼓とシンバルは、一人しか担当できず、オーディションとなる。ある女の子は、太鼓のオーディションでは失敗していしまい、落選する。シンバルでは、熱意が認められたのか合格して、大喜びする。音楽担当の教諭は、かなり厳しい。シンバルの女の子が間違えると、何で練習してこなかったんだとみんなの前で問い詰め、女の子は泣き出してしまう。優しい女性担任教諭から慰められ、女の子も一生懸命練習したのか、本番では見事にやり遂げ、担任教諭に抱き付く。
【日本人の作り方】
本作の原題は、"The Making of a Japanese "
あからさまな感じではある。山崎エマ監督は、「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている」という観察から、日本人を作り出しているのは小学校に鍵があるのではないか、と本作を構想したとのこと。そしてこの映画を観ると、「確かに」と納得させられる。
日本人の美質と言われる、時間を守ること、整理整頓、礼儀正しさ、協調性、勤勉性などが、こうやって身に付いていくのだということが、よく分かる。
その一方、少々やり過ぎなのではないか、とも思える。小学校で高級旅館のように靴を整然と揃える必要があるのだろうか、給食のときに大きなモニターに残り時間のタイマーが映し出されるのは落ち着かないのではないか‥‥
しかし、文句は言うまい。このような教育がなされているおかげで、私も多くの利益を得ているからである。時間通りに運行される列車、きちんと並ぶ人々、清潔な街、礼儀正しい店員‥‥
災害のニュースに接すると、いかに私の生活は多くの人の真面目な努力に支えられているかを知る。そして、その基盤になるのが、全国でほぼ同じ内容の小学校教育なのである。
あの放送部員の男の子は、意味のないと思える指示にも精一杯取り組むことの意義を実感しただろう。そして、これこそ将来、組織人として求められる第一の資質なのである。
シンバルの女の子は、その幼い心に引き受けた役割の責任を果たす大切さをしっかりと刻んだだろう。しかし、音楽の演奏は楽しさよりも緊張感を伴うものとして記憶されたかもしれない。
この映画を観ていて、小学校の頃のことがいくつか思い浮かび、あまり良い気分とは言えなかった。
あの「逆上がり」という、鉄棒を逆手に持って足を蹴り上げ身体を引き上げ、鉄棒に身体を巻き付けるようにして回転する運動ができるようになるということが、何かの通過儀礼のようになっていたのはなぜなのだろう‥‥というような。
日本の小学校教育は、かなり成功していると言えるだろう。諸外国からも称賛されているようだ。とはいえ、私自身がもし6歳に戻って、日本の小学校に入学したいかと尋ねられたら、少し回答を留保させてほしいと、答えるかもしれない。
映画「小学校〜それは小さな社会〜」
★★★★
日本人の在り方を考えるヒントが詰まっている。99分